ISOは総会で品質、情報、労働衛生、環境などすべてのマネジメントシステム規格について、気候変動に関する要求事項が追補規定され、2024年2月23日に発行されました。日本では、「気候変動」を「地球温暖化」と表現しています。ISOのマネジメント規格の中に気候変動に一番関係のある規格がISO 14001です。環境問題をシステマチックに、しかも現場で解決するISO 14001について一緒に考えていきましょう。
目次
ISOとは
ISOとは、スイスのジュネーブに本部を置く非政府機関International Organization for Standardization(国際標準化機構)の略称です。ISOの主な活動は国際的に適用する規格を制定することであり、ISOが制定した規格をISO規格といいます。
ISO規格は,国際的な取引をスムーズにするために、何らかの製品やサービスに関して「世界中で同じ品質、同じレベルのもの提供できるようにする」という国際的な基準です。
制定・改訂は日本を含む世界170ヵ国(2024年1月現在)加盟国の投票により決まります。日本ではJIS(日本産業規格:Japanese Industrial Standards)を審議しているJISC(日本工業標準調査会:事務局経済産業省)が加盟しています。
ISOの種類
製品規格(モノの規格)
2万を超えるISO規格のほとんどが製品規格(モノの規格)です。例えば、非常口のマークはISO 7010で規定されて、世界中どこでも同じマークです。
また、ネジもISO規格ネジという呼び方で広まっています。その寸法の規定をISO規格としてまとめ、全世界で共有しています。日本では、特別なサイズを除きJISとISOネジは同じです。
マネジメント規格
「仕組み」に対する標準化(マネジメントシステム(MS)規格)は、「モノ」(製品規格)のように有形のものを対象とするのではなく、組織運営(仕組み)のあり方を規定した文書としてまとめたものです。つまり、組織を適切に指揮・管理する「仕組み」=マネジメントシステム(MS)です。
環境経営に向けて
環境経営とは環境配慮経営であり、「地球環境に配慮した経営」のことです。ただ環境を意識するだけでなく、環境問題に取り組みながら企業価値をも向上させることがポイントです。ISOでも「気候変動」がマネジメントシステムの要求事項に入り、世界的に環境問題が顕在化する中、組織や事業者が社会的に果たす責任の1つとして環境経営が注目されています。
環境問題に取り組みながら「企業価値」の向上
組織や事業者が環境経営に取り組む意義は、以下の2点があります。
- 環境に配慮して事業活動に伴う資源・ユーティリティ(エネルギー)消費を抑えることで、コスト削減にもつながる
- グリーン調達や環境に配慮した製品・サービスを提供することで、サステナブル(持続可能)な消費・生産活動を促進できることも重要な意義でSDGsの考え方とベクトルもあっています。
環境経営のメリット
企業イメージの向上
CSRや環境問題が注目されている現代社会においては、環境経営を行っているという事実が組織や事業者イメージの向上につながるでしょう。環境経営は、自社ブランドに対する顧客のイメージや共感性を高め、付加価値の向上や他社との差別化にも効果的と考えます。
ビジネスチャンスの拡大
環境経営はビジネスチャンスの拡大にも貢献します。環境に配慮した製品・サービス市場は拡大しており、消費者も環境への問題意識を高めています。消費者・お客様に選ばれる企業になるために、環境経営は必須となるかもしれません。
また、環境経営を行うためには、事業活動を効率化しなければなりませんから、収益性の改善効果も期待できるかと思います。
投資家の評価向上
企業イメージが向上し、ビジネスチャンスが拡大すれば、投資家からの評価も上がります。最近では環境に配慮した企業に限って投資するファンドもあります。
環境経営の注意点
環境経営には上記のようなメリットがありますが、デメリットも存在します。環境経営に取り組む場合は、あらかじめ注意点について確認したいと思います。
従業員の理解
環境経営を行うことで、従業員の負担が増える可能性もあります。従来のやり方を変える必要もあると思いますから社内の反発もあるかと考えます。環境経営の重要性を伝えつつ、従業員・社員の理解を得るようにコミュニケーションも必要です。
コスト増加
環境経営で業務・ユーティリティ消費を効率化すればコスト削減になりますが、その一方で環境に配慮した製品を開発する過程でコストが増える可能性もあります。組織や事業者として利益も追及しなければならない場面もあると思います。環境経営の実践は慎重に進める必要があります。
環境経営を実践する手法
環境経営を実践する手法としては、
(STEP1)持続可能な経営戦略の立案・構築
(STEP2)利害関係者とのコミュニケーション
(STEP3)経営環境の分析
があります。
持続可能な経営戦略の立案・構築
短期的な利益を追及するビジネスモデルもありますが、昨今では環境はもちろん、地域社会や利害関係者との関係を保持した持続可能なビジネスモデルが求められています。例えば、石油・石炭などの天然資源への依存から脱却するために、再生可能エネルギーへ転換するプラン、太陽光発電設備の導入などがあります。
利害関係者とのコミュニケーション
経営者が率先して環境経営に取り組むことは重要ですが、利害関係者とのコミュニケーションを怠らないようにしましょう。お客様や従業員、株主など、それぞれの立場や期待を把握し、環境経営に対する期待感を醸成することも重要です。
経営環境の分析
環境経営を開始するにあたり、経営環境を分析することも必要です。たとえば、「PEST分析:政治(Politics)、経済(Economy)、社会(Society)、技術(Technology)」」などで自社を取り巻く環境を客観的に分析する必要があります。経営環境を正しく分析し、自社が実践すべき環境経営の取り組みを考える必要があります。
また、設備導入等で行政からの補助金なども確認しておくと良いと考えます。
環境認証システムと環境マネジメントシステム
環境認証システム
組織や企業が自主的に行っている環境配慮について、第三者機関が認定する制度です。第三者からの認証を受けることで、対外的に環境経営を示すことになりアピールに使える客観的な証として利用できます。組織・事業者のイメージアップにつながることは大きなメリットといえるでしょう。また、環境への配慮を意識している消費者にとっては、製品・サービスを選ぶ際の判断要素にもなります。
環境マネジメントシステム
組織や事業者が、その運営や経営の中で自主的に環境保全に関する取り組みを進めるにあたり、環境に関する方針や目標を自ら設定し、これらの達成に向けて取り組んでいくことを「環境管理」又は、「環境マネジメント」といい、このための組織や事業者の体制・手続き等の仕組みを「環境マネジメントシステム」「EMS(Environmental Management System)」といいます。
また、こうした自主的な環境管理の取り組み状況について、客観的な立場からチェックを行うことを「環境監査」といいます。
環境マネジメントや環境監査は、事業活動を環境に優しいものに変えていくために効果的な手法であり、幅広い組織や事業者が積極的に取り組んでいくことが期待されています。
環境マネジメントシステムには、環境省が策定したエコアクション21や、国際規格のISO 14001があります。ほかにも地方自治体、NPOなどが策定した環境マネジメントシステムがあり、全国規模のものにはエコステージ、KES・環境マネジメントシステム・スタンダードなどがあります。
ISO 14001
ISO 14001とは
ISO 14001とは、ISO(国際標準化機構)が1996年に定めた「環境マネジメントシステム」のことです。
順守義務を満たし、環境パフォーマンスを向上させるために、環境マネジメントの取り組みを継続的に改善する仕組みです。
PDCA(Plan→Do→Check→Act)サイクルに基づくわかり易い構成になっています。
グローバル展開、又は、海外にウイングを広げる計画をしている企業・組織は国際規格の認証取得は不可欠と考えます。
EMSの最終的な目標は、環境パフォーマンスを改善すること、環境の変化に対応しつつ事業を継続することにありますが、マネジメントの対象は、組織の活動、製品・サービスです。EMSの取り組みは組織の活動、製品・サービスを改善するための取り組みにほかなりません。ISOでは、EMSのガイドライン規格(ISO 14004)のほか、環境ラベル(ISO 14020シリーズ)、環境パフォーマンス評価(ISO 4030シリーズ)、ライフサイクルアセスメント(ISO14040)、温室効果ガス;GHG(ISO 47060シリーズ)などの様々な規格があります。EMSの運用において、必要に応じて、これらを利用すると良いでしょう。
ISO 14001についてもっと詳しく知るためには
国内の大気中の二酸化炭素濃度、メタン濃度が右肩上がりに上昇してきています。私たちの「現場」でISO 14001 マネジメントシステムの仕組みを活用して、次世代に地球環境をできるだけ汚さないで、引き継ぎたいものです。SATの「ISOマネジメントシステム ISO14001」講座を受講して、ISO 14001について勉強しましょう。