技術・技能伝承は企業が生き残っていくための最も重要な課題の一つと言っても過言ではありません。企業活動の中で、習得した技術・技能は伝承されなければ、その組織から消滅することになってしまい、生産活動で様々な問題が発生してしまいます。
そこでここでは、技術・技能を熟練の技術者・技能者から後継者に伝承する進め方、そのポイントを解説しています。
特に技能・技術の中では、技能要素の多い仕事の伝承が難しい現実があるため、技能の伝承を重点的に確認していきましょう。
目次
そもそも技能や技術とは
まず技能と技術について、その違いと関連性を交えて解説します。
技能とは人の中に備わっているものであり、人がスキルとして身につけている状態を指します。
例えば、塗装をスプレーガンでムラなく塗る技能や、溶接をばらつきなく品質的に問題なくきれいに仕上げる技能などが挙げられます。これらは塗装や溶接を行う人が身につけているスキルであり、大変主観的なものです。
一方で、技術とは人の外にあるもので、文字化されたり図面に表現されたり、フローチャートとして整理され、客観的な技術資料として整備されているものです。
特に注目すべき点は、技術や技能が後継者に伝承されなければ、その組織から失われてしまうという点です。技術は技術資料として組織に蓄積される傾向がありますが、資料の見方や活用方法が伝承されなければ、それらの技術は活用されなくなります。
一方で、技能は伝承されなければ完全に消滅してしまいます。そのため、技能を技術化し、その技術化された資料を活用して技能の伝承を行うことが重要です。
技術技能伝承問題の現状
技術や技能の伝承の必要性を説明しましたが、それを阻む問題や課題も存在します。ここでは、いくつかの課題について解説します。
伝承で活用できる作業標準書が整備されていない
作業標準書が全く整備されていない企業は少ないと思われますが、適時的確に改訂され、作業指導に活用できる状態になっているかというと課題がある企業も多いようです。
伝承する時間が取れない
伝承のためには、指導者と指導対象者の双方が時間を確保する必要があります。特に伝承する側の時間確保が難しい現状があります。
世代間のギャップ
ベテラン技術者や技能者と若手の間の世代間ギャップが、コミュニケーションを難しくし、適切な伝承行為を妨げる要因となっています。
伝承のチャンスが少ない
技術や技能を実際に実施する機会が少ないと、伝承が難しくなります。特に技能の場合、この点が顕著です。
伝承すべき人が教えない
ベテランの技術者や技能者が後継者に知識や技能を教えないケースです。完全に教えないわけではありませんが、大切なポイントを伝えない場合があります。その理由はさまざまで、自分の存在価値が下がると思い込むケースもあるようです。
教え方・指導方法がわからない
自分が教わった経験がない指導者は、どのように教えるべきか分からない場合があります。この問題を解消するために、指導方法の基本を習得すると教える効率が向上すると期待できます。
技術や技能の指導スキルとは
技術や技能を指導するためのスキルには、大きく分けてティーチングとコーチングの2種類があります。
ティーチングとは
ティーチングとは、指導者がテキストや資料(主に作業標準書)を活用して、指導対象者に具体的な内容を教えるアプローチです。技能の伝承ではこのティーチングスキルが主に活用されます。
ティーチングを効率的に行うためには、「教え方の5段階」を活用するのが効果的です。
教える準備をする – 指導内容や対象者に合わせて適切な準備を行います。
仕事の説明をする – なぜその仕事を行うのか、目的を説明します。
やってみせる – 実際に模範を示して見せます。
やらせてみる – 指導対象者に実際にやらせてみます。
実施結果の確認をする – 実際の結果を確認し、フィードバックを与えます。
コーチングとは
コーチングは、指導対象者から意見や考えを引き出すアプローチで、特に技術の伝承において重要視されます。
コーチングのポイントは、質問を有効活用して指導対象者に考えさせることです。このアプローチでは、以下の5つのコアスキルが活用されます。
質問のスキル – 効果的な質問を通じて考えを促します。
承認のスキル – 対象者の意見や努力を認め、意欲を引き出します。
傾聴のスキル – 相手の話を注意深く聞き、信頼関係を築きます。
状況理解のスキル – 指導対象者の状況を正確に把握します。
自己管理のスキル – 自身の感情や行動を適切にコントロールします。
ティーチングとコーチングは、どちらも指導対象者が納得できるように進めることが重要です。納得感があると、作業内容を吸収しやすくなり、確実な実践が期待できます。また、コーチングそのものが納得を引き出すためのアプローチといえます。
技術や技能を定着化させる方法
技術や技能を定着化させるには、計画的なOJT(On the Job Training)がポイントになります。
OJT計画表を指導者と指導対象者が話し合いながら作成し、実施することで技術や技能を確実に伝承し、定着化させることができます。特に上司も加わっての話し合いが重要で、指導対象者にその意義を十分に理解させることが必要です。
さらに、計画を実践するために管理者のフォローや、組織内での事例共有も効果的です。例えば、イントラネットに事例をアップしたり、ZOOM会議でOJT担当者同士が悩みや感想を共有する場を設けたりすることは、伝承を定着化させるために有意義です。
技術や技能の伝承は、個人だけでなく組織全体の成長に直結する重要な取り組みです。計画的で効率的な方法を採用し、組織全体で取り組んでいきましょう。
技術や技能の伝承方法をより詳しく学ぶためには
技術・技能の伝承方法をより詳しく学びたい方へ向けて、SATの技術者スターター講座「現場の技能伝承の進め方」ではその実施方法を解説しています。
前述したように技術と技能では技能の伝承の方が難易度が高いと考え、この講座では技能伝承を中心に行なっています。
主な項目は次のような内容です。
第1章 現場が抱えている課題
第2章 技能と教え方のスキル
第3章 コーチングの意味
第4章 技能を定着化させる仕組み・ツーづくり
第5章 暗黙知の技能伝承のコツ
第6章 組織的に技能を高める
第7章 動機づけ
第8章 伝承指導の実際
会社において技術や技能伝承がうまく行っていないと感じる管理職または経営者の方はもちろん、ベテランの技術者・技能者で後輩を育成する必要がある人にもおすすめの講座です。
技術者スターター講座を受講し、その内容をすぐに実践し、部下・後輩・自分の後継者に指導を実践してください。実際に指導すると受講内容がより具体的に習得できるようになります。