近年、コンピュータ技術の目覚ましい進歩により、設計の世界は大きな変革を遂げています。「CAD(キャド)」と「CAE(シーエーイー)」と呼ばれるコンピュータ支援ツールが広く普及し、設計作業の効率化と品質向上に大きく貢献しています。これらは現代のモノづくりに不可欠な存在であり、より速く、より良い製品を生み出すための強力な武器となっています。
この記事では、CADとCAEについて、その基本的な概念から活用方法、学習方法まで、初心者にも分かりやすく解説します。
目次
CADとは? ~コンピュータ支援設計~
CADは「Computer-Aided Design」の略で、コンピュータを使って製品や建築物などの「形状」を設計するためのソフトウェアです。かつて設計者が鉛筆と定規で手描きしていた図面作成作業を、コンピュータ上で行えるようにしたものです。
- 高速・正確:手書きに比べて圧倒的に速く、正確な図形を描画できます。
- 修正が容易:間違いの修正や設計変更が簡単に行えます。
- 情報共有が容易:作成した設計データを電子ファイルとして簡単に共有・管理できます。
CADは、設計者のアイデアを効率的に具現化し、設計プロセスを支援する重要なツールです。
CADの進化:平面から立体へ
CAD技術はコンピュータの進化とともに発展していきました。
- 手描き図面(~1970年代):時間と手間がかかり、修正も困難でした。
- 2D CAD(1970年代~):コンピュータ上で「平面的」な図面を作成できるようになり、効率と精度が向上しました。建設図面や回路図などが主な用途です。
- 3D CAD(1990年代~):コンピュータ上で「立体的な」モデルを作成出来るようになりました。製品全体の形状把握や部品間の干渉チェックが容易になり、設計ミスを減らすことができます。自動車部品や家電製品など、複雑な形状の設計に適しています。
- 2D CAD:平面図の作成に特化。操作は比較的シンプル。
- 3D CAD:立体モデルの作成に特化。完成イメージの把握、干渉チェック、後述するCAEとの連携、製造データへの活用などに優れています。
3D CADによる設計プロセス例
- 構想:製品の機能、形状、材質などを決定します。
- 3Dモデリング:3D CADソフトを使用し、アイデアを立体的な形状データにします。部品の組み立てや動作シミュレーションも可能です。
- 検証:作成したモデルに問題がないか確認します。部品同士の干渉や、強度・耐久性などをシミュレーション(CAE)で評価することもあります。
- 詳細設計:検証結果に基づきモデルを修正し、製造に必要な寸法などの詳細情報を追加します。
- ドキュメント作成:図面や仕様書などの資料を作成し、製造部門や関係者と共有します。
CADの必要性:設計の高速化と品質向上
CADは、現代のモノづくりにおいて効率化と品質向上の両面で欠かせません。
- 設計スピードアップ:図形のコピー、修正、繰り返し作業が容易となり、作業時間が大幅に短縮されます。データの管理・検索・共有も効率化されます。
- 設計品質向上:3Dモデルにより形状の誤解や設計ミスを防ぎます。部品間の干渉チェック機能や、CAEとの連携による事前検証により、手戻りを減らし、製品への信頼性を高めます。
- 製造との連携:CADデータは、CAM(Computer-Aided Manufacturing)システムや3Dプリンターに直接利用でき、設計から製造までのプロセスをスムーズに連携させます。
- 円滑な情報共有:3Dモデルは、言語や専門知識に依存せず、製品形状を直感的に伝えられます。関係者間の認識齟齬を減らし、コミュニケーションを円滑にします。
CAEとは? ~コンピュータ支援エンジニアリング~
CAEは「Computer-Aided Engineering」の略で、CADで作成した設計データ(3Dモデル)を用いて、製品の性能や挙動をコンピュータ上でシミュレーション(模擬実験)する技術です。
試作品を実際に作る前に、強度、耐久性、熱、流れなどの様々な側面から設計の妥当性を検証できます。これにより、設計の初期段階で問題点を発見し、修正することが可能になります。
CAEの重要性:開発の効率化や高品質化
CAEの活用は、製品開発プロセスに多くのメリットをもたらします。
- 品質向上:強度、耐久性、安全性などをシミュレーションで詳細に評価し、問題点を事前に特定・改善することで、信頼性の高い製品開発が可能となります。様々な条件下での挙動を予測できます。
- 開発期間短縮:試作品の製作回数を大幅に削減できます。試作にかかる時間とコストを節約し、設計の手戻りを減らすことで、開発プロセス全体をスピードアップします。
- コスト削減:試作費用(材料費、加工費、人件費)や、設計変更・開発遅延に伴うコストを削減できます。
- フロントローディングの実現:開発の初期段階(上流工程)で問題を発見・解決する「フロントローディング」を強力に支援します。後工程での大幅な手戻りを防ぎ、開発をスムーズに進めます。
CAEの主な用途
CAEでは、目的に応じて様々な種類のシミュレーション(解析)が行われます。
- 構造解析:部品や製品に力が加わった際の奇形や応力集中、破壊の可能性などを評価します。(例:橋梁の耐荷重性、椅子の強度)
- 熱解析:熱の伝わり方や温度分布を解析し、部品の過熱や熱変形などを評価します。(例:電子機器の放熱設計、エンジンの耐熱性)
- 流体解析:空気や水などの流体の動きや圧力を解析します。(例:自動車の空力特性、配管内の流れ)
- 射出成形シミュレーション:樹脂製品を金型で成形する際の充填プロセスや、ヒケ・ソリなどの成形不良を予測します。)
- 電磁場解析:電気・磁気・電波の挙動や相互作用を解析します。(例:アンテナ性能、モーター効率)
これらの解析を組み合わせることで、製品の複合的な性能を詳細に検討できます。
CAD/CAEの学習方法とツール
CAD/CAEスキルは、今後のモノづくりにおいてますます重要になります。
学習方法
- 書籍・インターネット教材:基礎知識や操作方法を体系的に学べます。
- オンライン講座:動画教材などで実践的なスキルを習得できます。
SATの講座は、動画教材を活用して視覚的に分かりやすく、自分のペースで実践的なスキルを習得したいと考えている方に向いています。
AUTODESK FUSIONは、3D CAD機能だけでなく、CAMやCAE機能も統合された高機能なソフトウェアですが、比較的操作は覚えやすいと言われており、個人や中小企業での導入も進んでいます。SATの講座は、このようなソフトのスキルを身につけたい場合に選択肢の一つとなります。 - 専門学校・大学:設計や解析に関する知識・技術を基礎から応用まで深く学べます。
- メーカー主催セミナー:ソフトウェアの最新情報や活用方法を学べます。
- 資格試験:スキルレベルを客観的に証明できます。
代表的なソフトウェア
CAD
- AutoCAD:建築・土木・機械など幅広い分野で利用される汎用CAD
- SOLIDWORKS:機械設計分野で広く使われる3D CAD。CAE機能も搭載。
- CATIA:航空宇宙・自動車産業などで使われるハンエンド3D CAD。
CAE
- ANSYS:構造・熱・流体・電磁場など多岐にわたる解析に対応する統合CAEソフト。
- COMSOL Multiphysics:複数の物理現象が連成する複雑な問題(マルチフィジックス)の解析を得意とするCAEソフト。
もっと詳しく学ぶためには
CADとCAEは、設計の効率化、品質向上、コスト削減を実現し、モノづくりのプロセスを根本から変革する力を持っています。これらのツールを効果的に活用することで、設計者はより創造的で質の高い製品開発に注力できるようになります。SATの「3D活用を中心としたCADとCAEについて」講座ではこういったCAD/CAEの基礎から応用までを習得することができます。
今後、AI(人工知能)などの先端技術との融合により、CAD/CAEはさらなる進化を遂げることが予想されます。これらの技術を学び、活用することは、自身の設計スキルを高め、未来のモノづくりに貢献するための重要なステップとなるでしょう。