ISO 9001の重要性は、単に製品やサービスの品質を高めるだけでなく、企業の効率性や信頼性を向上させることにもあります。市場競争が激化する中で、ISO 9001の認証を取得することは、企業にとって信頼性の証明となり、取引先や顧客に対して大きなアピールとなるとともに、社内の体制整備にも役立ちます。本記事では、ISO 9001について解説するとともに、ISO 9001とISO 14001の違い、そして「品質管理」と「品質保証」についても解説します。
目次
ISOとは
ISO規格とは、国際的な取引をスムーズにするために、何らかの製品やサービスに関して「世界中で同じ品質、同じレベルのものを提供できるようにする」という国際的な基準です。
ISOが発行している基準は2万種類を超えています。2万を超えるISO規格のほとんどが製品規格(モノの規格)です。
一方、「仕組み」に対する標準化(マネジメントシステム(MS)規格)があり、組織運営(仕組み)のあり方を規定した文書としてまとめたもので、ISOマネジメントシステムと呼ばれています。
ISOマネジメントシステム
ISOマネジメントシステム企画を「品質系」、「リスク系」、「手引き類」と3つに分類します。
品質系
ISO 9001 | 品質マネジメントシステム | 一貫した製品・サービスを提供し、顧客満足に視点をおき品質保証活動を継続的に実施し、改善する仕組み |
ISO 13485 | 医療機器-品質マネジメントシステム | 設計監理に重点を置き、プロセスアプローチで対応 (任意規格ではない) |
リスク系(その1)
ISO 14001 | 環境マネジメントシステム | 環境管理を促進 |
ISO 22000 | 食品安全マネジメントシステム | 食品事故予防、HACCPにマネジメントシステムを取り組む |
ISO 22301 | 事業継続マネジメントシステム | 災害、伝染病発生時に備え事業継続に寄与する |
ISO/IEC 27001 | 情報セキュリティマネジメントシステム | 情報漏洩リスク低減 |
ISO 45001 | 労働安全マネジメントシステム | 労働安全衛生のリスク低減 |
IEC:International Electrotechnical Commission(国際電気標準機構)
リスク系(その2:日本ではあまりなじみないですが)
ISO 20121 | イベントの持続可能性に関するマネジメントシステム | イベントの持続可能性に関するリスク対応の仕組み |
ISO 37001 | 贈収賄防止マネジメントシステム | 贈収賄防止の取り組み |
ISO 39001 | 道路交通安全マネジメントシステム | 交通事故防止に対する仕組み |
ISO 50001 | エネルギーマネジメントシステム | エネルギーロスのリスク低減 |
ISO 55001 | アセットマネジメントシステム | 諸資産(アセット)をライフサイクル中に効果的に維持管理 |
手引き類
ISO 19011 | マネジメントシステム監査のための指針 | 内部監査、二社監査の”指針” |
ISO 31000 | リスクマネジメント | リスク対応に関する”指針” |
ISO 21500 | プロジェクトマネジメントの手引き | プロジェクトマネジメントに関する”指針” |

プロジェクトマネジメントは、PMBOK(Project Management Body Of Knowledge;プロジェクトマネジメントの知識体系)の方が、なじみがあります。
ISO 9001とは
この規格は、「一貫した製品・サービスを提供し、顧客満足の向上」に視点をおき、品質保証活動を継続的に実施し、改善する仕組みを構築します。
ISO 9001:2015版は「品質マネジメントの7つの原則」をベースに開発されています。各項目を一言で説明します。
- 顧客重視
ISO 9001の基本です - リーダーシップ
顧客重視はまずリーダーが先頭に立ってやる必要があります - 人々の積極参加
リーダーと共に、関係者全員で顧客重視をやりましょう - プロセスアプローチ
顧客重視は全体の流れ(プロセス)で達成できるものです - 改善
常に改善をしなければ、世の中の流れに取り残されてしまいます - 客観的事実に基づく意思決定
意思決定は客観的事実に基づいて判断しましょう - 関係性管理
協力会社さんなどの協力がなければ、良い品質は達成できません
この規格では品質だけの話ではなく、価格や納期など顧客が求める事、いわゆる「顧客要求事項」を満たすことも非常に重要です。(非常に品質が良くてもあまりにも高価格すぎる・納期が遅すぎて使いたい時に手元にこない等、こういったことがあると顧客の要望をかなえられているとは言えないため)
そのため、品質だけをとことん追求する、というわけではなくQCD(Q(quality:品質)C(cost:価格)D(delivery:納期))のバランスを重視した上で顧客の対応を行うことになります。
ISO 9001を取得するメリットと懸念事項
ISO 9001取得メリットについて「マーケティング視点」と、「マネジメント視点」に整理します。
マーケティングの視点
組織・企業としての信頼感や安定感がアップ
取引先拡大に繋がる、継続的に品質が改善され、常にお客様からの信頼を得られます。つまり、ISO 9001を取得している企業は「国際基準をクリアした品質の製品やサービスをお客様に提供できる企業」としてお客様から大きな安心感と信頼感を得られます。
顧客からの要求事項を満たす
業種により異なりますが顧客と取引するための条件の1つとして要求されるケースもあります。公共事業等の入札条件として求められる場合、取引先から取得要求がある場合等、「有利」になる場合もあれば、「必須条件」として提示されることもあります。
特に建設業の場合だと、入札時の経営事項審査における加点対象にISOの取得が加点対象になるケースがあります。(条件や加点については各県・市町村にて異なります)。入札の競争が非常に厳しくなっている中で、加点につなげられる1つの要因でもあることから取得のメリットは特に大きいです。
マネジメントの視点(社内的なメリット)
組織のシステムが確立され、生産性が高まる
ISO 9001を取得する(品質マネジメントシステムを構築する)ために必要なステップの一つに「作業手順の明確化」があります。
これまで何となく行われてきた「いつもの作業」を見直し、だれがいつ見てもどんな作業をどんな手順で行うかが分かるように明確にするのです。
この過程によって「無駄な作業や手順」「あいまいな基準や工程」「人によって違うやり方」等の品質に関わるマイナスポイントが明らかになり、PDCAサイクル(Plan(計画)・Do(実行)・Check(評価)・Act(確認))を回して改善しながら明確化することで生産性が向上し、製品やサービスの品質の維持向上はもちろん、利益率アップとコスト削減につながります。
継続的な改善による企業価値の向上そして組織体制の強化
ISO 9001の認証取得をすることは、単に仕組みを作るだけでなく、実際にその仕組みの運用が出来ておりその運用が目標に対して効果があるのか、実務の改善に大きく繋がります。
作業手順が明確化されることにより従業員の入れ替わりがあった際にもきちんと引継ぎや教育が行われ、常に一定の品質を保ち続けることができます。「やるべき仕事がはっきりしている」「自分の仕事が何のための作業なのかが分かる」状態は働く意欲・意識のレベルアップにつながります。
認証取得に取り組み、認証取得を継続していく上での仕組み改善活動とそれによって得られる組織内改善・向上こそがISO 9001の本質であり、非常に大きなメリットであると言えます。
新しいシステムやルールが社内で馴染むには時間がかかるものです。また、ISOはPDCAサイクルを回して継続的改善を行っていく必要があるため、中長期的な運用の中で、徐々に効果が現れていきます。
ISOを取得すれば、「取引が増える」「売上が増える」というものではありません。入札への参加や取引後の取引先が決まっていない限りは、売上の効果はすぐには感じられないでしょう。
ISO 14001との違い
ISO 9001の規格要求事項が求めているのは、品質(顧客満足)に関するマネジメントシステムで、良い製品やサービスを継続的に提供するための仕組みを管理することを求めています。
一方、ISO 14001の要求事項が求めているのは環境に関するマネジメントシステムです。このシステムは、組織が活動することで、自分たちを取り巻く人々・物・自然等々の環境に対して悪い影響を及ぼしていないかを確認して、悪影響を及ぼしているなら改善していく(リスク対応の)仕組みです。
品質マネジメントシステム(QMS)についても、環境の視点も組み込んで構築することで、自分たちを取り巻く環境に対して悪影響を抑えることができるでしょう。

企業・組織として持続的な経済活動を行う上で、ISO 9001とISO 14001の両方の視点を取り入れ、重視していくことは、ますます重要になっていきます。
品質保証のマネジメントシステムについて
品質のマネジメントは品質管理と品質保証があり、品質管理は組織、企業が主体の品質の取り組み、品質保証はお客様等外部から見た品質の取り組みです。
組織・企業は消費者の要望・ニーズを理解して商品を開発し、消費者が求めているものを市場に出す思考が重要です。その視点から品質のマネジメントシステムは、大きな品質保証の枠組みの中に品質管理が含有されています。
ISO 9001についてより詳しく学ぶためには
より詳しくISO 9001を学び、認証取得を考えている方、または、ISO 9001を活用してマネジメントシステムのレベルアップを考えている方はぜひSATの「ISOマネジメントシステム ISO 9001」講座にて学習してみましょう。