半導体業界は、今後10年で2倍の市場規模になるといわれています。日本国内では、90年代以降、日米摩擦や、韓台の台頭により、市場退出を余儀なくされてきました。
一方、製造装置、半導体向け材料については、多くの日本企業がグローバルに事業展開しています。日本政府が再度支援を行う中で、半導体業界への注目度が高まり、事業参入を検討する企業が増えています。
この記事では、半導体業界の概要や歴史を紹介しています。
目次
半導体業界とは
半導体業界は、コンピュータやスマートフォン、家電、自動車など、現代の多くの技術製品に不可欠な半導体を設計、製造、販売する企業群を指します。
半導体は、シリコンなどの材料を用いて作られ、電子機器の中で情報の処理や記憶、通信などの機能を担います。このため、半導体業界はIT産業やエレクトロニクス産業の基盤を支える重要な業界となっています。
当初は、一つの企業が製造装置、材料から、設計、製造、最終製品まで一貫するIDM(一貫デバイス製造)体系でしたが、徐々に水平分業化が進み、現在では、それらの業態がそれぞれ分離しています。
狭義の半導体業界は、デバイス製造企業を指しますが、広義には装置や材料、さらにそれらの上流企業まで含んだ巨大なエコシステムを指します。
半導体は、電子機器の「脳」
半導体は、電子機器の「脳」ともいえる存在です。
特に、デジタル社会においては、半導体の性能が技術革新の鍵を握ることが多く、スマートフォンの処理能力や、データセンターの効率性、自動運転車の安全性など、多岐にわたる分野で半導体技術が重要な役割を果たしています。
また、IoT(Internet of Things)の普及により、あらゆるものがインターネットに接続される現代社会では、半導体の需要が一層増加しています。
今や半導体はまさにあらゆる産業の米となっています。
半導体業界の歴史
半導体業界の歴史について、1950年代から1970年代まで、1980年代から1990年代まで、2000年代以降と3つの時代に分けて解説します。
1950年代から1970年代
半導体の歴史は1950年代に始まります。1957年にトランジスタが発明され、その後の1960年代には集積回路(IC)が登場しました。
これにより、電子機器の小型化と高性能化が進み、半導体の需要が急増しました。特に1960年代後半から1970年代初頭にかけては、米国のシリコンバレーが半導体産業の中心地として成長しました。
トランジスタの発明は、真空管に代わる電子部品として革新的なものであり、その後の集積回路の発展とともに、エレクトロニクス産業全体に大きな影響を与えました。
この時期には、フェアチャイルドセミコンダクターやインテルなどの企業が設立され、現在の半導体業界の礎が築かれました。
1980年代から1990年代
1980年代には、日本の企業が半導体業界で大きな存在感を示すようになりました。
米国市場での日本製半導体のシェアが拡大し、日本は世界の半導体市場で重要な地位を築き、米国の安全保障の脅威とも捉えられ、日本市場での米国製品シェアを増加するなど規定した日米半導体協定が締結されました。
さらに、1990年代には、韓国や台湾の企業が台頭し、競争が激化しました。また、技術の進歩とともに製造コストが増加し、多くの日本企業が厳しい状況に直面しました。
日本企業の強みは、品質管理と精密加工技術にありました。特にDRAM(Dynamic Random Access Memory)の分野では、NECや東芝、日立などの企業が世界市場をリードしていました。しかし、サムスンやTSMC(台湾積体電路製造)といった韓国や台湾の企業がコスト競争力と生産能力を武器に市場シェアを拡大する中で、日本企業は苦境に立たされることになりました。
2000年代以降
2000年代に入ると、インターネットの普及とともにスマートフォンやタブレットなどの新しいデバイスが登場し、半導体の需要が再び拡大しました。
特に韓国や台湾の企業は、メモリチップやディスプレイ技術で世界市場をリードするようになりました。後に台湾のTSMCは世界に先駆けたファウンドリーモデルの下でロジックデバイスにおいて世界市場をリードするようになりました。日本企業も製造装置や材料分野でグローバルな展開を進めています。
この時期には、半導体製造の技術がさらに進化し、ナノメートル単位での微細加工が可能になりました。これにより、半導体の集積度が飛躍的に向上し、処理能力やエネルギー効率が大幅に改善されました。
特にスマートフォンの普及により、半導体業界全体の成長が加速し、業界全体が大きな変革期を迎えました。
半導体業界の「今」
では、今現在の半導体業界はどのようになっているのでしょうか。
市場規模と成長
現在、半導体業界は年々成長を続けており、今後10年間で市場規模が2倍になると予測されています。
この成長を支える要因として、AI技術の進化、5G通信の普及、自動運転車の開発などが挙げられます。これらの技術はすべて高性能な半導体を必要としており、業界の需要をさらに押し上げています。
特に、生成AIを中心にしたAI技術の進化により、文章・画像・動画生成、データ解析や機械学習の性能が向上し、多くの産業で効率化が進むことが期待されます。
また、5G通信の普及は、データ処理速度の飛躍的な向上と、通信容量の大幅な増加を可能にします。これにより、スマートシティやスマートホームなど、新たな技術の実現が期待されています。
自動運転車の分野でも、高度なセンサー技術やリアルタイムデータ処理能力が求められ、半導体技術が不可欠です。
技術革新と課題
半導体業界は技術革新のスピードが非常に速く、常に新しい技術が求められます。例えば、ナノメートル単位での微細加工技術や、量子コンピューティング技術などが注目されています。
しかし、これらの技術革新には膨大な研究開発費用と高度な専門知識が必要です。また、地政学的リスクやサプライチェーンの問題も業界の課題となっています。
特に、微細加工技術の進化は、デナードの法則で言われる、トランジスタのサイズを縮小することで半導体の性能を向上させるものですが、その実現には高い技術力と投資が必要です。また、量子コンピューティングは、現在の半導体技術の限界を超える新たな計算能力を提供する可能性がありますが、実用化にはまだ時間がかかります。
さらに、米中貿易摩擦や地政学的リスクにより、サプライチェーンの安定性が脅かされることもあり、業界全体でのリスク管理が求められます。
日本の位置付け
日本の半導体業界は、かつてのような世界市場での圧倒的なシェアは失ったものの、製造装置や材料分野では依然として高い競争力を持っています。
特に精密加工技術や品質管理において、日本企業は他国の追随を許さない強みを持っています。また、日本政府も半導体産業の復興を目指して支援策を講じており、新たな成長のチャンスが見込まれます。
日本企業は、製造装置や材料の分野での強みを生かし、グローバル市場での競争力を維持するために、積極的な研究開発投資を行っています。
例えば、東京エレクトロンやアドバンテストなどの企業は、先端的な製造装置を提供し、世界中の半導体メーカーに重要な技術を提供しています。また、信越化学やSUMCOといった企業は、高品質なシリコンウェハーを製造し、半導体製造の基盤を支えています。
半導体業界の「未来」
ここからは、半導体業界の未来はこれからどのようになっていくかを解説します。
未来の展望
半導体業界の未来は非常に明るいと予想されています。
AI技術の進化は今後の半導体市場の拡大を牽引すると予測されています。AIチップやニューラルネットワークの処理を高速化、低消費エネルギー化するための半導体技術の開発が進んでいます。
また、6G通信の導入により、さらなるデータ処理速度の向上と通信容量の拡大、低遅延のデータ転送が実現されます。これにより、高性能な半導体の需要が一層高まるでしょう。
特にさらなるAI技術の進化により、自動運転車やスマートファクトリーといった新たな応用分野が拡大することが期待されます。自動運転車では、リアルタイムでのデータ処理能力が求められ、AI技術と高性能な半導体が不可欠です。
また、スマートファクトリーでは、センサーやロボットを通じたリアルタイムの生産管理が行われ、効率化とコスト削減が図られます。これらの分野での技術革新が、半導体業界全体の成長を牽引することが予想されます。
サステナビリティと環境対策
今後、半導体業界はサステナビリティと環境対策にも注力する必要があります。
製造プロセスでのエネルギー消費や廃棄物の削減、再生可能エネルギーの利用など、環境負荷を減らす取り組みが求められます。これにより、持続可能な産業としての地位を確立し、社会的な信頼を得ることが重要です。
半導体製造には多くのエネルギーと水資源が必要とされるため、これらの資源の効率的な利用と環境負荷の削減が求められます。また、再生可能エネルギーの利用や、製造プロセスの効率化を通じて、環境に配慮した持続可能な生産体制を確立することが重要です。
さらに、廃棄物のリサイクルや有害物質の削減にも取り組むことで、環境への影響を最小限に抑えることが求められます。
日本企業の役割
日本企業は、製造装置や材料分野での強みを生かし、グローバル市場での競争力を維持することが求められます。
また、AIや5Gといった新技術への対応力を高めるため、積極的な研究開発投資と人材育成が必要です。日本政府の支援も活用し、産業全体の底上げを図ることが重要です。
日本企業は、技術革新と環境対策の両立を目指し、持続可能な成長を実現するための取り組みを進めています。
また、グローバル市場での競争力を維持するためには、国際的な連携や共同研究も重要です。また、人材育成にも力を入れ、高度な専門知識を持つエンジニアを育成することで、技術革新を支える基盤を強化することが重要です。
半導体業界は、現代の技術社会を支える基盤産業であり、今後も大きな成長が見込まれます。
日本企業はその中で独自の強みを発揮し、新たな技術革新と環境対策を通じて、グローバルな競争力を高めることが求められます。
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講座の内容は以下のようになっています。
1. 半導体とは
2. IT産業市場動向
3. 半導体技術動向
4. 半導体製造装置へのニーズ
5. 半導体材料へのニーズ
6. 半導体業界を取り巻く環境
7. 日本の半導体業界
8. 今後の展望
総講義時間:5時間03分
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