「ネットワーク設計・管理」の対象は、PC・スマートフォン・サーバなどの情報機器の間で情報交換を行う「情報通信ネットワーク(以下、ネットワーク)」です。
インターネット、クラウドサービス、ネットワークセキュリティ、IoT(Internet of Things)などの社会基盤とも深く関わっています。
この記事では、ネットワーク設計・管理に関する基礎的な知識について解説しています。
目次
ネットワーク設計・管理とは
ネットワークのライフサイクルは、他の情報システムと同様に「企画・要件定義・設計・構築・運用・保守」と定義できます。
各フェーズでは、ネットワーク技術者が他分野の技術者と協力しながら作業を遂行しています。ネットワークには様々な種類と規模があり、小規模オフィス、自宅、集合住宅などのネットワークでは、一般の利用者がライフサイクルの一部を担当する場合もあります。
「ネットワーク設計・管理」とは、狭義にはネットワークライフサイクルの中の一部の作業を指しますが、ここではネットワークのライフサイクルに必要な技術全般を指すことにします。
ネットワーク技術をネットワーク技術者のスキルとして俯瞰すると次のようになります。これは、iコンピテンスディクショナリ2022(IPA)からの抜粋です。
- 実装:アーキテクチャ設計手法、ソフトウェアエンジニアリング手法
- 利活用:サービスの設計・移行
- 支援活動:品質マネジメント手法、リスクマネジメント手法、資産管理手法
- システム:ソフトウェアの基礎技術、構築技術、ネットワークの基礎技術、構築技術技術、利用技術、クラウドコンピューティングの基礎技術、構築技術、利用技術
- 開発:システムアーキテクティング技術
- 保守や運用:ITサービスオペレーション技術、システム保守や運用や評価
- 非機能要件:非機能要件可用性、性能・拡張性、セキュリティの基礎技術、構築技術、利用技術
- その他:法規・基準・標準など
ネットワーク設計・管理で重要なこと
ネットワークは、主に以下で構成されています。
- ネットワーク機器、IoTデバイス、ネットワーク回線などの「ハードウェア」
- サーバ、PCなどの汎用機器上のネットワーク機能などの「ソフトウェア」
- インターネットや移動体通信、クラウドなどの「サービス」
ネットワークは、社会基盤として法制度や国家戦略の影響を受ける場合もあります。また、他の技術領域に比べ技術の変化が速いという特徴があります。
特に、Web(HTTP2/3)、無線(5G/6G、Wi-fi 5/6/6E)、セキュリティ、クラウドサービスなどでは、数年単位で新技術が従来技術に置き換わることも稀ではありません。さらに、クラウドサービスが多様化し普及するに伴い、物理実体と離れて仮想化されるネットワーク機能も増えています。
そのような中で、ネットワークは相互接続性を確保しなければなりません。そこに必要なのが、「ネットワーク標準」と、その前提となるアーキテクチャ「参照モデル」です。
個々のサービスや要素技術への深い理解とは別に、これらの業界標準を正しく理解していることが重要です。
ネットワークに関わる人や企業
ネットワークでは、通信機器メーカ、通信事業者、SIer、運用保守事業者、利用企業、利用者など様々な主体が関係します。ネットワーク設計・管理は、多くの技術者や利用者にとって自己完結する業務ではありません。
また、ネットワーク業界の専門家であっても、ネットワーク技術の全てを完全に理解しているわけではありません。
ネットワークの構成や技術課題を自分なりに要素分解し、適材適所の専門家に業務を委ねる能力も重要です。
ネットワークの未来とは
2000年前後のインターネット、2010年前後のクラウドサービスと、ネットワークは二つのディスラプション(破壊的イノベーション)を経験したといっても言い過ぎではないでしょう。
現在(2020年から2030年にかけて)も、クラウドネットワークやWeb3(情報のインターネットから経済のインターネットへ)、光電融合ネットワーク、量子・AI技術のネットワークへの応用など、ネットワークの進化は続いています。
そこでは、他の技術領域と同様に、融合技術領域のスキルが重要であると共に、ネットワークに対してある意味で技術的責任を負うことになるネットワーク技術者のアイデンティティが、より重要になってきます。
ネットワーク技術とは
今、皆さんはスマートフォンを使ってこの記事を読んでいるかもしれません。そこにどのようなネットワーク技術が使われているでしょうか。前述の「ネットワーク標準や参照モデル」を意識して俯瞰してみます。
物理層/データリンク層
参照モデルの低位レイヤを「物理層/データリンク層」と呼びます。皆さんのスマートフォンは最寄りの無線LAN(Wi-Fi)を経由してインターネットと通信しているかもしれません。
スマートフォンが無線LANと通信できるのは、それが標準(例えばIEEE 802.11ac)に従った通信だからです。量販店等で別々に購入した機器間で通信可能なのもその商品が標準に準拠(Wi-Fi5認定機器)しているからです。
ネットワーク層
物理層/データリンク層の一つ上のレイヤを「ネットワーク層」と呼びます。インターネットには無数の通信ノードがありますが、皆さんはその経路を意識することなく、記事のURL(https://www…)を指定するだけで、記事を配信するサーバと通信しています。
ネットワーク層はそれを支える機能群です。ルータと呼ばれる通信機器が相互に経路情報を交換しながら動的に最適な経路を動的に決定しています。
いわゆる「ネットワーク屋さん」の世界では、「物理層/データリンク層~ネットワーク層」に着目した設計がネットワーク設計の中核となります。
トランスポート層/アプリケーション層
その上位層「トランスポート層/アプリケーション層」では、スマートフォンと配信サーバ間のWeb通信を安定的かつ効率的に行う機能が盛り込まれています。
配信サーバは同時に多くの相手と通信を行っているはずです。その仕組みもこの層が提供します。この事例ではWebコンピューティングの分野と重なります。
「ネットワーク標準や参照モデル」は基本中の基本
層別に概要を見てきましたが、実際の通信では、各層の識別子(MACアドレス、IPアドレスなど)やそれを支える仕組みやセキュリティ機能など他の要素も関係します。
要素技術の進歩は速いのですが、「ネットワーク標準や参照モデル」の考え方は、ここ何十年間基本的に変わっていません。
その理解は、ネットワーク設計・管理(ネットワーク業務)だけではなく、新技術の習得(その位置付けや従来技術との違いによる見極め等)、ネットワークに関する会話(どのレイヤの話をしているのかによる誤解の排除、正しい技術用語による正確なコミュニケーション)、トラブル対応(障害切分け、対応依頼先の選定又は自己解決)などにも役立ちます。
ネットワーク設計・管理をより詳しく学ぶには
より詳しくネットワーク設計・管理に関して学びたい場合、通信講座SATの技術者スターター講座「ネットワーク設計・管理」がおすすめです。この講座は、ネットワーク技術を体系的に学ぶための講座となっています。
カリキュラムは以下のようになっています。
総講義時間 7時間38分
- はじめに
ネットワークの構成要素
ネットワークの例
ネットワーク技術者像、活動領域 - ネットワークの基本概念
階層化された通信プロトコル: 参照モデル、情報のカプセル化、IPアドレスとポート番号
仮想化: ネットワーク標準 / ネットワーク構成図 - 通信プロトコルと実装例
物理層、データリンク層:有線LAN、無線LAN、移動体通信、その他(Bluetooth、LPWA)
ネットワーク層、トランスポート層:TCP/IP、ネットワーク制御、ルーティング、トランスポート、アドレス変換、NAT超え、優先制御 - インターネット・クラウドコンピューティング
アプリケーション層:ドメイン名管理、ネットワーク監視、時刻同期、ユニファイドコミュニケーション、電子メール、Web技術 - サイバーセキュリティ
情報セキュリティフレームワーク
暗号、ブロックチェーン、PKI
ネットワークセキュリティ機器: ファイアウォール、IDS、IPS
AAA(認証、認可、アカウンティング)
電子メールセキュリティ
クラウドセキュリティサービス
Zero Trust Architecture - 関連するトピックス
IoT(Internet of Thins)
Web3
APN(All Photonics Network)
宇宙ネットワーク
独学だけでは理解が難しい概念や考え方の説明を行った後、参照モデルのレイヤ別に、特定のベンダやサービスプロバイダに偏らないようにしながら、実ビジネスに結びつく実践的内容を解説しています。
また、ネットワークの教科書にありがちな従来からある基本技術だけではなく、最新の内容や融合領域(ネットワークセキュリティ、クラウドコンピューティング)についても解説を行い、関連する技術(IoT、Web3)などの紹介も行っています。
この講座を受講することで、Web情報や一般の書籍では難しい、次のスキルを比較的簡単に身につけることができます。
- ネットワーク標準やネットワークアーキテクチャの考え方
- ビジネスや個人生活に使われる、ネットワークに関する技術用語の理解
- ネットワークの関連分野(クラウド、セキュリティ等)、ネットワーク技術との関係
また、この講座はネットワーク技術者だけではなく、異分野の専門家やこの分野に興味をもつ一般の方も対象としています。
そのため、目指すゴール(受講後の達成目標)を次のとおりとしています。
- ネットワークの基盤やサービスに関して、利用者または発注者の立場で、設計、運用、管理等の業務に関わることができる。
- 講座で学んだことを出発点にして、ネットワーク技術の専門職(ネットワークエンジニア)を目指すことができる。
この講座によりネットワークの全体を俯瞰した後は、関係する要素技術についてWebや書籍をあたってください。また、ネットワーク工学について体系的に勉強したい場合には、「コンピュータネットワーク第6版(タネンバウム、日経BP社)」等を参照してください。
この講座は受験講座ではありませんが、自己のネットワーク技術を客観評価するために、「ネットワーク・スペシャリスト試験(IPA)」にチャレンジするのもよいでしょう。