ドラッカーは、世界の自動車メーカーの代表であったGMのコンサルティングを通じて、「企業とは何か」という著作でマネジメントを体系化しました。
この記事では、製造業のパラダイムシフトとなったトヨタ生産方式と、それをヒントに発案されたTOCについて解説し、ドラッカーに倣ったマネジメントの体系化について紹介しています。
目次
TOC(Theory Of Constraint )とは
TOC(Theory Of Constraint:制約理論)は、20世紀最後の1990年代にゴールドラット博士著作による世界でベストセラーになった小説「ザ・ゴール」で有名になりました。
小説の中のハイキングのメタファー(比喩)で、歩行速度と進行間隔を生産工程の能力と在庫に置き換え、ハイキングのマネジメントから生産システムのマネジメントにヒントを得ています。
TOCは、ジャパン・アズ・ナンバーワンとしてアメリカが日本の製造業に脅威を抱いていた時代に、日本に対抗する意図で開発されました。
和訳はありませんが、ゴールドラット博士には“The Race”という日本との競争を意識した共著があります。「当初は独自に開発したとしていましたがトヨタ生産方式からヒントを得たとゴールドラット博士が暴露しています。
TOCは成果を阻害している制約を発見し、その制約を最大限活用することで成果を出す手法です。
従来の科学的管理法である部分に分けてすべての効率を上げるのではなく、俯瞰的にみて繋がりあう有機的(生き物)システムの制約に焦点を当てて、全体最適を目指す手法です。
生産システムの経営指標において、TOCでは経費削減よりもモノの流れであるスループットを第一にすることを重視します。
スループットを制約しているボトルネックの認識と、ボトルネックに速度を合わせるシンクロ(同期化)することと、ボトルネックの能力を上げてボトルネックが別の場所に移動すると、新しいボトルネックに合わせて再度シンクロする。これを繰り返すことで連続的に改善できると言う手法です。
トヨタ生産方式とは
一方トヨタ生産方式とは、トヨタによるとジャストインタイムと自働化(ニンベンのあるジドウカ)からなると言われています。
ジャストインタイムは、ものづくりにおいて必要なモノを必要な時、必要な数だけ用意する手法です。
部品の保管・取り出し・運搬のロジスティクスが、実際の仕事より桁違いに時間がかかります。
- 車を組み立てることより、組立場所に部品を揃えることの方が難しいとの前提で改善する。
- 人・モノ・設備の配置で、モノと人の動線にムダを無くす。
- 離れた工程を寄せあって、人や物が移動しやすくして1人で複数の工程が持てるようにする。
これらの具体的な手段が多く含まれます。トヨタ生産方式もTOCのハイキングと同じように、リレーや水泳競技などのメタファー(比喩)を多用しています。
自働化とは社祖である豊田佐吉の自動織機開発において、糸のもつれを機械の運転者ではなく、機械が自動的に判断して機械が止まるように工夫した原理をヒントにしています。
つまりものづくりおいては上からの指揮命令はなく、現場が自律的判断での停止始動をする組織論と言えます。
TOCとトヨタ生産方式の共通点と相違点
ではTOCとトヨタ生産方式の違いはどこにあるのでしょうか。
TOCが制約工程に従属する同期化のメカニズムや論理を重視するのに対して、トヨタ生産方式は自律重視の組織論を基礎に置きます。
トヨタ生産方式では、制約というより実需である出荷速度に合わせて生産するプル方式をジャストインタイムと言います。市場に制約がある場合は出荷速度が制約となり、TOCでトヨタ生産方式を説明することが出来ます。
トヨタ生産方式はアメリカではリーン生産システムとも言われ、従来の科学的大量生産方式に対するパラダイムシフトとして注目されています。しかし日米ともに成功事例が少なく、その制約になっているのが人間の特質や組織論に起因すると考えられます。現場が各自の工程だけではなく経営視点に立って全体最適を目指す自律性、自主性を重視します。
TOCはシンプルに生産システムをモデル化でき、スケジューリング・ソフトウエアなどの導入で短時間に成果を上げられるのに対して、トヨタ生産方式は社祖である豊田佐吉の語録、豊田綱領に見られるように、二宮尊徳などの思想をベースにする人間・組織論などの概念が入ります。
企業は社会の機関として社会に役立つ必要があり、顧客満足とは社会貢献であるとして、マネジメントを体系化したドラッカーとの共通点を見出すことができます。
米国の製造業ではTOCベースのソフトウエア実装で、多くの業界で活用されています。
またトヨタ生産方式は、ドラッカーと共通する経営原理から企業革新への応用が期待されています。
コンビニなど流通業や郵便事業など多くの産業にも応用されて、テイラーの科学的管理法を超える新パラダイムを考えられます。
TOCとトヨタ生産方式を基盤とするマネジメントを学ぼう
TOCとトヨタ生産方式を基盤としたマネジメントより詳しく学ぶためには、通信教育SATの技術者スターター講座100「トヨタ生産システムとTOC(制約理論)を基盤とするマネジメント」がおすすめです。
内容は以下の通りです。
- ゴールドラット博士のTOC(制約理論)
- TPS(トヨタ式生産システム)の本質
- TOCとTPSに共通する稼げる生産システム
- 生産システムイノベーション
- トヨタ式経営とドラッカーマネジメント
1と2では、TOCとトヨタ生産システムとをそれぞれの開発者の用語で解説します。
そのあと講師による解釈により、3でTOCとTPSに共通する稼げる生産システムの原理をサプライチェーンマネジメントとして体系化します。TOCではそれほど重視していない「在庫の本質」に触れ在庫削減が収益にどれだけ重要な意味を持つか考察します。
4で産業革命から始まったイノベーションの歴史をドラッカーの解説を踏まえトヨタ生産システムの革新性に触れます。徒弟制度で数十年もかかっていた技能が教育により技術となって数年に短縮し、科学的管理法の元祖フレデリック・テイラーにより数か月に短縮した。どれも知識がイノベーションに貢献した。
5でドラッカーの枠組みでトヨタ式経営を説明し、普遍的なマネジメントを理解します。
伝統的思考と社会生態システム思考
また、イノベーションの歴史においてドラッカーと同じく西洋近代科学の伝統的思考が主客分離になって問題解決を困難にしているとして、社会生態学システム思考(主客合一)を提案しているMITのピーター・センゲの思想にふれ普遍的マネジメントの進化を述べます。
科学的管理法の元祖フレデリック・テイラーを超えるマネジメントとしての新しいパラダイムです。
伝統的思考(主客分離)と社会生態システム思考(主客合一)の違い
伝統的思考(主客分離) | 社会生態システム思考(主客合一) |
---|---|
問題にぶつかったらバラバラに分解して、複雑な問題を簡単にする | どんな問題もより大きな統一体とつながっており大局的に問題を把握する |
自分自身と世界を別のモノとする態度 | 自分は世界とつながっていると見る態度 |
フォードやスローンやワトソンという戦略家が指示を出して他の皆は従う組織 | あらゆるレベルの意欲と学習能力を活かし自律する組織 |
働くことを目的の手段とする「道具」的見方 | 働くことをやりがいのある「神聖」なものとする見方 |
権威主義的な「管理する組織」 | 役割分担のネットワーク組織 |
ピーター・センゲと同じようにドラッカーの社会生態学企業モデルは、下記のような考え方をします。
- 企業組織は有機体であり、新陳代謝の必要な生態系の一部である。
- 器官が身体の一部であるように、企業は社会の機関であり、社会的機能である。
- 生態系のプロセスに部分はなく、すべて全体である。
トヨタ生産方式もTOCも、ドラッカーの分業論経営からのパラダイムシフトと言えます。
- 計画と実行を分離すること、仕事を要素に分割して要素別に分業する分業論は、食べることや消化することを別の身体で行わせるのに等しい。
- 人に要素作業を割りふることは人間の特質に反しており、お粗末な機械とみなすものである。総合されたもので失ったものは意思・個性・感情・欲求・情熱である。
- 過剰人員は役割が細切れになり生産性は落ちる。
- 分業論は科学的迷信である。
TOCもトヨタ生産システムもドラッカーのマネジメントも、イノベーションの方法論の元祖とも言える古代ギリシャアのアリストテレスの帰納法や演繹法による発想法で体系化できます。
本講座は講師がコンサルタントとして企業の収益改善の取り組んだ手法、「診断から処方」すなわち、在庫分析、収益構造分析、現場観察から経営改善プログラム構築のプロセスまで解説します。その基礎的概念がTOCやトヨタ式経営から抽出したものです。