I.Rと申します。
私は日本ヒューレット・パッカード(HP)で半導体計測システムの開発に携わった後、プロジェクトリーダーとしてHP全社の設計・製造のデジタル化と業務改革を進め、大幅な開発効率化を実現しました。その成果が認められ、日科技連石川賞を受賞した経験があります。
その後、「業務改善は個人の成長が伴ってこそ真の効果を発揮する」という信念のもと、心理学やコーチングの手法を取り入れ、開発の仕組みを改善しながら、個々の意欲を引き出す支援を行っています。
この記事では、私の専門的見地から、仕組みと意識の「両軸の改革」 についてお伝えします。
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目次
両軸の改革について
以前、「両利きの経営」という本が話題になっていました。
組織経営学者チャールズ・オライリー教授が提唱している、VUCAといわれている変化の時代における経営の在り方です。「主力事業の絶え間ない改善」と「新規事業に向けた実験と行動」を両立させることがポイントです。
「両利きの経営」では「組織カルチャー」を変える必要性が強調されていますが、製品やサービス(以後、プロダクト)の開発を改善・改革するのも同様で、組織カルチャーを変える働きかけが重要になります。
これは、私が実施しているコンサルティングに共通した考え方です。仕組み作りの効果を最大化するためには組織文化を作っている個人のマインドにも働きかけることが大切なのです。そこで、私のコンサルティングである両軸の改革を紹介したいと思います。
組織のパフォーマンス
プロダクトの開発や保守における生産性や品質、リードタイムの改善とは、その工程(プロセス)に注目して改善する仕組みを作ることです。
そのために新しいシステムやツールを導入したり、各種の業務規定や作業手順を変えたりするものの、期待していた効果は出なかったというケースは少なくありません。
期待した効果を得ることができない原因は、すべての関係者が新たな仕組みに適応、順応することが必要不可欠であり、そのためには各人のマインドや意識を変える必要があるということを軽視していることにあります。新しい仕組みで業務を遂行するのは技術者や管理者なのですから、彼らの意識が変わらなければ期待した効果を手にすることはできません。
下記の図で示しているように、組織としてのパフォーマンスを最大化するには、個人のマインドと組織の仕組みの両方に対する取り組みが必要なのです。
生産性、品質、リードタイムなどを向上させるために組織としての仕組みを整備することは必要不可欠ですが、大元となる組織のメンバー一人ひとりの仕事に対するやる気や成長のための意欲が不十分な状況では、どのような仕組みを作っても十分な効果を出すことはできません。
スキルの構造
仕組みとは、その組織のメンバーによる業務レベルを一斉に向上するためのものであり、その運用によってメンバーの業務スキルが向上し、開発の効率や品質を向上させることを狙いとしています。
一方で、管理者や技術者の一人ひとりが、仕事に対する意欲や、メンバーとのコミュニケーション方法やマネジメント方法などのスキルが向上しなければ、どんな仕組みであっても業務効率や品質を向上させることは困難です。
つまり、開発の生産性や品質を向上させるために有効な仕組みとは、広い意味での個人の業務スキルを向上させることです。
上の図で示しているように、スキルには「ハードスキル」と「ソフトスキル」があります。
ハードスキルは、開発業務における設計やテスト、プロジェクト管理などの業務そのものに関係するスキルです。一方、ソフトスキルは、チームワークやコミュニケーション、仕事に対する姿勢といった、一見すると業務そのものには直接関係しないと思われがちな意識や姿勢に関するスキルです。
適切なソフトスキルが身についていなければ、ハードスキルを活かすことができません。また、個人がそもそもスキル向上を望まなければ、新たなスキルを身につけることも向上させることもできません。
つまり、ハードスキルとソフトスキルの両方を向上させる取り組みが両軸の改革なのです。
スキルから見た仕組み構築の取り組み方
ハードスキルとソフトスキルに対する重視の度合いによって、上図「スキルから見た仕組み構築活動の分類」のように仕組み作りの活動は以下の4つに分類できます
– 第1象限
ハードスキルとソフトスキルの両方を重視した取り組み。プロセス改善とリーダー育成の同時実施など。
– 第2象限
ソフトスキルだけを重視した取り組み。1on1 の導入など。
– 第3象限
ハードスキルもソフトスキルも軽視した表面的な取り組み。納入先から要望で開発規定やビジョンを作成するなど。
– 第4象限
ハードスキルだけを重視した取り組み。設計手順書の整備など。
第1象限が、私が狙っている最も改善効果の高い取り組みです。多くの企業の改革を支援してきた経験から、社内メンバーで取り組むにせよ、コンサルタントと契約するにせよ、ハードスキルとソフトスキルの両方を重視した取り組みをしているところは少ないと感じています。
そのために、人や時間、費用などのリソースを費やしたにもかかわらず、期待した効果を手に入れることができない仕組み構築や改善活動が散見されることになっています。
取り組み方による効果の違い
取り組み方の違いによって、上図「スキルから見た改善活動の効果」に示すように改善効果は大きく異なります
– 第1象限(両軸重視)
コンサルティング中もその後も、最も大きな効果を生み出し、時間とともに効果は増加し続けます。仕組みを実践し改善するマインドも備わっているからです。
– 第2象限(ソフトスキルのみ)
コンサルティング中は効果が出るものの、終了後は徐々に元の状態に戻る傾向があります。取り組み当初の一時的な高揚感を持続することができないためです。
– 第3象限(表面的)
小さな改善効果しか得られず、場合によっては状況が悪化することもあります。新たな仕組みの目的や意義が共有されておらず、新たな負担にしか感じられないためです。
– 第4象限(ハードスキルのみ)
コンサルティング中は効果が出るものの、終了後の成長は限定的です。構築した仕組みを運用する効果はあるもの、仕組みの改善や追加の仕組み作りのマインドが十分ではないためです。
ここでは具体的な効果は紹介しませんが、多くの組織で以下のようなことが起きています。
- 開発規定は整備したものの次第に守らなくなった
- コンサルタントが去ったら元の仕事のやり方に戻ってしまった
- 1on1 は負担が大きいわりに効果を感じない
- 新しい仕組みは負担が増えただけ
具体的な取り組みの例
私が提供している主な活動テーマには以下のようなものがあります
ソフトスキル面
- ワーク・エンゲージメント測定
- 組織文化分析
- 仕事に対する価値観分析
- リーダー育成・ワークショップ
- コーチング
- 経験学習(リフレクション)
ハードスキル面
- アセスメント(問題の定量分析)
- 各種ソリューション・モデルのトレーニングとカスタマイズ
- プロセス改善手法のトレーニングとカスタマイズ
- 中期計画作成とKGI・KPI管理
- メトリクス管理
- 各種開発規定整備
「両軸の改革」に関するご相談はSAT PROでお待ちしておいます
プロダクトの開発業務に限らず、様々な組織で実施されている仕組み構築や改善活動において、組織の構成メンバーのスキル向上につながる活動であること、そして、ハードスキルとソフトスキルの両方を考慮した「両軸の改革」の取り組みにすることが、大きな、そして、持続的な効果につながります。まずは、自分の組織が4象限のどこに位置するのかを考えてみるとよいでしょう。
ご質問やご相談がありましたら、SAT PROよりお気軽にご連絡ください。