QFD(Quality Function Deployment:品質機能展開)は、顧客ニーズ(Voice of Customer)を起点として、「断トツ製品」を開発するための具体的プロセスを提供する手法です。
ただし複雑で難解な仕組みのためか結果に対する納得性が得られないことが多く、展開を断念する企業も少なくありません。
この記事を読んでQFDを理解し、顧客のハートをくすぐる「感動製品」の創出に挑戦してみてください。
目次
今なぜQFDなのか
QFD(品質機能展開)は、1978年に顧客の要求を満たす製品品質を効率的に実現させる手法として日本で提案されました。内容の良さが評価され、世界規模で発展しました。ジャパン・アズ・ナンバーワンといわれた時代です。
欧米では、社会性の関係でそのまま展開は困難なため新製品開発のしくみの中に組み込むことによって発展しました。代表例がDFSS(デザイン・フォー・シックスシグマ)です。
一方、日本では製造業が世界競争力を失ってきています。
要因はいろいろあるのでしょうが、大きなひとつが結果を評価するマネジメントを導入する企業が増え、挑戦する技術開発を取り上げるよりも結果の見えるテーマを取り上げるケースが増えてしまいました。
さらに、勤務形態が変化し、在宅勤務やWebでの会議体が増え日本の最も得意とした全員参加、知恵の結集が弱まったことも否めません。
そこで、改めて注目されているのが魅力ある新製品開発のためのしくみとなるQFDの活用なのです。
QFD(品質機能展開)とは
冒頭でも紹介した通り、QFD(品質機能展開)とは顧客のニーズを起点として製品を開発する手法です。
QFDを実施することで的確に顧客ニーズをつかむことができ、それらの優先順位付けもできるので、市場ニーズを先取りした魅力的な商品を生み出すことができます。
開発初期段階からQFDのプロセスに沿って進めることで、手戻りが減って開発期間が短縮し、コスト低減にもつながります。
さらに、源流での検討が充実することによって品質が向上し、その検討過程が見える化、共有化されることで、関係部門間の連携が強化されるという効果も期待できます。
顧客ニーズをしっかり分析して商品企画を行い、そこで設定された企画品質(顧客への訴求ポイント)を中心に品質特性(個々の顧客ニーズを実現させる技術的要素)に変換して完成品の設計品質(設計目標値)を定めます。
これを製品が構成されるさまざまな部品の品質に置き換え、開発設計~生産技術~調達~製造~検査などの開発に関わる全ての工程での目標と課題を明確にします。QFDは、商品企画で設定した高い目標を確実に実現する、新製品開発の体系的アプローチです。
このように、元々品質を管理する手法として生まれたQFDですが、近年は、「顧客にとって価値ある魅力的な商品を生み出すためにはどのような製品・サービスが必要か」を考えるための、商品企画手法としての適用が進んでいます。
つまり、「製品を正しくつくる」 ことの前に、「顧客に高い価値を提供できる製品・サービスとは何か」、「その製品・サービスを実現するには何をするべきか」という、取り組むべき課題を明確にすることに重点が移ってきています。
開発の源流でこれらのことがしっかり考えられて、しかもその考えた過程が見える化されトレースできる手法として、QFDの活用が注目されているのです。
QFDを導入するメリット
QFDを実施することでどのような効果が期待できるのかを以下に列挙してみます。
① 市場ニーズの先取り
顕在化している顧客要求に留まらず、顧客がまだ気づいていない、あるいは仕方ないと諦めているような潜在要求まで掘り下げて分析して、開発する製品・サービスが備えるべき品質を検討できます。
例えば、思ってもみなかったような顧客の使用条件や環境など、さまざまなシーンを想定することで、新たな付加機能の発想や、品質保証の先取り検討を行えることもあるでしょう。
② 開発目標の明確化
商品コンセプトとして絞り込んだ顧客要求を品質特性に変換し、設計目標値として明確に設定ができます。
プロジェクトの方向性がはっきりするため、プロジェクトに関わる全員が同じ目標に向かって一貫した努力を行うことができます。これにより、リソースの無駄遣いを防ぎ、効率的に作業が進められます。
③ 事前検討の充実
開発設計に着手する前の段階で、重要な設計目標を実現する上での技術課題が見える化されます。
源流段階で技術課題に対する対策や方針を検討できるので、トラブルの未然防止や再発防止、設計の手戻りを低減されます。
重要な品質特性の内、互いに背反するものを品質表上で見える化でき、技術的にブレークスルーが必要となる課題が明確になります。
④ 品質伝達の適正化
[顧客要求→品質特性→設計目標→設備条件→作業標準→検査条件]と、製品開発の各工程で守るべき品質を開発設計着手時にそれぞれの部門関係者で共有し、納得した上でスタートを切れます。
品質が間違いなく伝達されることで手戻りが減り、開発期間の短縮と開発コストの削減につながります。
⑤ 評価確認(重要評価項目)の徹底
開発着手時に、品質表上に重要評価項目が明記されることでQA表や工程管理表、QC工程表などに反映され、徹底することができます。
評価の徹底は潜在的な問題を早期に発見し迅速な対応を可能にします。また開発に関わったメンバー全体のパフォーマンス向上にも寄与します。
QFDの手順と品質表について
QFDでは、「品質表」と呼ぶ二元表で、さまざまな顧客ニーズと多くの技術的な特性の間の紐づけを行っています。
QFDでは、対象製品に対して顧客から寄せられる要求や使用条件などのさまざまな情報を原始情報と呼んでいます。
① VOCの整理と要求品質(顧客が要求する品質の程度)の抽出
原始情報にはクレーム情報のようなネガティブなものから、より良い品質を求めるようなポジティブなもの、あるいは開発時には思いもよらなかった意見など、さまざまなものがあります。性質の異なるものであっても、それらを洗いざらい抽出することから始めます。
通常はチームを組んで、ワークショップ形式で作業することが多く、各自が保有している顧客情報から持ち寄ってひとつのExcelファイル等にまとめています。この段階では、数百~数千件という膨大な数に及ぶことがありますが、重複したり、似ている内容の原始情報は括ってしまうため総数は何分の一かに整理されます。
次に、集めた原始情報の一つひとつを言語情報として、さまざまなシーンを想定しながら顧客が要求する品質の程度を表す言葉(要求品質)に変換・整理します。
原始情報に対してさまざまなシーンを想定することによって、原始情報が直接指している要求(顕在ニーズ)だけでなく、顧客が意図していなかったり、気づいていないような潜在ニーズまでも探り出すことができます。
この原始情報をきっかけにして要求品質を抽出・整理するプロセスが、顧客ニーズを起点とするQFDのキモになる部分です。
② 企画品質の検討(顧客目線で狙う品質を特定)
次に、各要求品質の重要度判定や競合製品比較などを行い、開発の狙いとして、どの要求品質を重視するかを判断します。この「狙う品質」を明確にすることが一般的な商品企画に相当しますが、QFDではそれを企画品質と呼んでいます。
一般的な商品企画では、社内で保有する技術や開発見通しの範囲内で開発目標や訴求ポイントを設定しがちですが、QFDで企画品質を検討する際は、先ずは顧客(市場)から見てどの品質に関心が強いか、その品質はどの製品が優れているか、など、自社の都合から離れて顧客がどう判断するか、という観点で評価し、その上で戦略的にどこを重点化するかを決めていきます。
つまり、やれること、やりたいことからではなく、やるべきことをコンセプトとして設定するのが基本になります。
③ 品質特性(技術的要素)&マトリクスと設計品質(設計目標値)の設定
企画品質を検討した上で、各要求品質の実現に関係する品質特性(技術的要素)が何かを明らかにしていきます。その際、複数と複数の要素を二元配置して確認できるマトリクスを使いながらヌケモレなく考えていきます。
但し全ての品質特性を網羅することではなく、企画品質で商品コンセプトに設定した要求品質(「狙う品質」)を優先させて、その実現に関係の深い品質特性から抽出することで作業の効率化が図れます。
そして、レベルアップすべき要求品質を中心に、関係する品質特性ごとに、完成品の設計品質(設計目標値)を定めます。
なお、残った要求品質についても、追って関連する品質特性を二元表に抽出・整理しておくと、後々のモデルチェンジ時に新たな企画品質が設定された折、時間を省くことができます。
これにより、開発を進める上で、「狙う品質(顧客ニーズ・顧客価値)」は何か、「狙う品質」を実現するためには「どの品質特性を、どのレベルで実現する必要があるか」を開発関係者全員で共有できるようになります。
また、実現を阻むボトルネック技術が明確になり、その解決に向けて早い段階で解決策を講じることができます。
④ 品質展開から機能展開へ(既存の帳票類の活用)
このようにして品質表で明確にした重点項目を中心に、設計→生産技術→調達→製造→検査(品質保証)に至るまでの様々な工程に、各段階のインプット/アウトプットとして順番に展開していきます。
ここでQFDのために特別に作られたツールは品質表だけで、設計以降の各工程では品質を確保するために従来から使われている帳票類(設計仕様書、設備仕様書、FT表、FMEA表、DRBFM、QA表、管理工程図、ほか)を必要に応じて使用しています。
QFDは、モノづくりのあらゆる段階で、顧客から発せられた要求品質を意識し、重点化して活かしていく仕組みであるということができます。いわば、確実に顧客満足を実現する製品を、さらには顧客に感動を提供する製品を開発しようというアプローチです。
QFDを簡素化!福原メソッドとは?
福原メソッドはQFD(品質機能展開)の難解で手間のかかる部分を簡素化する手法です。
具体的には、VOC(Voice Of Customer:顧客の声)を「強い関心」と「あまり強くない関心」の二つに区分し、市場に詳しい従業員に再評価させて整理します。
これにより、Aランク(他社に劣らないべき)、Cランク(他社並みで十分)、Bランク(プロジェクトリーダーが判断)のVOCが整理されます。
自動車産業などでは、Bランクに予想外の魅力が含まれる可能性があります。この方法はMITのドン・クロージング氏により採択され、米国の軍需、自動車、家庭雑貨産業などで広く採用され成果を上げました。
さらに、福原メソッドは展開の簡素化も提案しています。従来の16枚の品質表を1枚の品質表と系統図(R-FTA、FTAなど)に簡素化します。新規製品開発にも対応し、QFDの本来の質を保ちながら簡素化を目指しています。
この方法はQFDを効率的かつ実践しやすくすることで、企業が顧客の声を製品品質に反映させるための手段です。
QFDをより詳しく学ぶためには
QFDをより詳しく学びたいという方は、SATの技術者スターター講座100「効率的なQFDの進め方
」がおすすめです。
こちらは製品開発に関わる全ての方に理解いただける内容となっています。
講座のカリキュラムは以下のようになっています。
- はじめに
- 第1章 品質機能展開(QFD)とは
良い品質が企業を支える
良い品質とは
新製品開発活動での課題
QFDとは(良い品質の製品を効率的に開発する) - 第2章 QFDの具体的な進め方
要求品質展開表
品質表の作成手順(顧客の感動する製品を実現する)
(業務)機能の展開(効率的開発の着眼点) - 第3章 QFDの期待効果
- おわりに
総講義時間 5時間11分
特に下記のような人には、是非とも参考にしていただきたいと思います。
- 自社の製品開発や技術開発のプロセスに課題感をお持ちで、より良い方法を探している方
- 開発プロジェクトのマネージャあるいは主要メンバーで、プロジェクトの成果にコミットするために良い方法を必要としている方
受講いただいたのちには、“顧客ニーズ”の概念が変わるはずです。
お客様、ユーザーの発する声をどう解釈して、それをどう製品に反映するか、あるいは、“声無き声”にどう耳を傾けるか、など製品開発の源流での検討に着手してみよう、と考えていただけるのではないでしょうか。
QFDは、40年以上前に提案された手法ですが、その適用方法が現代にマッチするように進化していますので、新しい手法としてお取り組みください。