振動工具とは振動の力を利用した工具のことで、チェーンソーや電動ハンマーをはじめ、さまざまな種類があります。
業務で振動工具を取り扱う場合、安全衛生教育を受講しなければなりません。
振動工具の扱いを誤ると、健康被害や労働災害につながるおそれがあるからです。
そこで今回は、振動工具取扱作業者安全衛生教育における受講の必要性、カリキュラム、受講方法について解説します。
目次
振動工具取扱作業者とは?
振動工具取扱作業者とは、労働安全衛生法に基づく安全衛生教育の修了者のことを指します。
事業者は、厚生労働省の通達により、チェーンソー以外の振動工具を取り扱う作業者全員に対し、安全衛生教育を受けさせることが求められています。
振動工具とは、振動を発生する工具のことです。
電動ハンマーやドリル、ハンドブレーカー、インパクトレンチなど、さまざまな種類があります。建設業、解体工事業、造園工事業、管工事業など、幅広い業種で利用されています。
振動工具取扱作業者の安全衛生教育が必要な理由
振動工具を扱うために、振動工具取扱作業者安全衛生教育が必要な2つの理由を見ていきましょう。
振動工具によって振動障害を発症するおそれがあるから
振動工具を取り扱う作業者に安全衛生教育が必要な理由は、振動工具が原因で「振動障害」を発症するおそれがあるためです。
振動障害とは、振動工具の振動が体に伝わることで、血流や神経の働きを阻害し、身体機能に異常をきたす障害です。
振動工具での振動障害になる要因としては、著しい振動、長時間の操作、工具の重量による筋の緊張、寒冷な環境、体力や疾病、喫煙習慣などが挙げられます。
また、振動手袋や耳栓などの保護具を着用しない、振動工具の点検・整備を怠るといった間違った方法で、重い振動工具を長時間操作すると、振動障害の発生リスクが高くなるとされています。
振動工具を使用する時間が長くなるほど、振動障害は発生しやすくなります。ただし、人によっては短期間で発症するケースもあるため、1日でも早く振動工具の正しい使い方を理解しなければなりません。
なお、振動障害は障害が起きる部分により、以下の3種類に分類されます。
末梢循環障害
末梢循環障害とは、指先など末端に血液が循環しなくなる障害のことです。
末端に血液が循環しないことで、手指が白くなる、手指の冷え、こわばり、痺れ、手指の感覚が鈍くなる、ずきずきと痛むといった症状が発生します。これらの現象をレイノー現象といい、振動工具を使用する人が発症する白ろう病という職業病を引き起こします。
レイノー現象は、ハンマーやドリル、チェーンソーなど、強い振動を発する振動工具を長時間使用することによって起こります。さらに、寒冷、騒音といった作業環境、喫煙、加齢による神経の鈍化といった要因もレイノー現象を招きます。なお、末梢循環障害は、高周波振動の影響が大きいとされています。
通常、レイノー現象は5分~15分程度で自然に治まります。しかし、症状が残る場合は、温熱療法、理学療法、薬物療法などが必要です。振動障害は簡単に治らないため、根気強く治療を続けなければなりません。
末梢神経障害
末梢神経障害とは、振動工具の振動で末梢神経に異常が起きる障害です。
手足の痺れや痛み、知覚が鈍る、麻痺などの症状が起こります。神経障害の症状が進むと、手指の細かい動きができなくなるおそれもあります。
末梢神経は背骨から手足につながる神経で、脳や脊髄のように骨で守られていません。そのため、振動工具の影響を受けやすいのです。
なお、神経障害を患った場合には、交感神経ブロック、交感神経遮断術など、外科的な治療が有効になるケースもあります。
運動器障害
振動工具による運動器障害は、おもに骨と関節に起こります。指、手、ひじの関節に痛みが生じるのが運動器障害の特徴です。
また、振動工具を使い続けると、骨や関節が変形する場合があります。変形が進行すると、尺骨神経麻痺や、手指の筋肉が縮んで鷲手(わして)になる可能性もあるので注意が必要です。
鷲手は尺骨神経麻痺が原因による手の変形で、症状が進むとモノをつかむことが困難になるおそれもあります。
なお、運動器障害は、低周波の振動で起きやすいとされています。
振動工具による労災認定があとを絶たないから
振動工具に安全衛生教育が必要なもう1つの理由は、振動障害による労災認定があとを絶たないためです。以下は過去の振動工具の振動障害による労災認定件数です。
業種/年度 | 平成30年度 | 令和元年度 | 令和2年度 | 令和3年度 | 令和4年度 |
---|---|---|---|---|---|
林業 | 24 | 24 | 27 | 22 | 24 |
鉱業 (採石業を除く) | 31 | 34 | 24 | 15 | 5 |
採石業 | 8 | 4 | 4 | 4 | 3 |
建設業 (土木業を含む) | 137 | 150 | 146 | 121 | 128 |
製造業 | 30 | 33 | 32 | 30 | 43 |
その他 | 51 | 40 | 36 | 29 | 17 |
計 | 281 | 285 | 269 | 221 | 220 |
(単位:人) 出典:厚生労働省
なお、振動障害で労災認定を受け、療養を1年以上継続している人数は例年5,000人を超えています。
振動工具の扱いを原因とする労働災害を防ぐには、操作時間の管理、工具の選定、作業環境の整備、健康管理が必要です。
振動工具取扱作業者安全衛生教育では、国際標準化機構(ISO)などが取り入れている振動障害対策に合わせ、振動工具の適切な使い方を学びます。
振動工具取扱作業者安全衛生教育の概要
振動工具取扱作業者安全衛生教育の受講対象者、受講内容、受講方法について解説します。
振動工具取扱作業者安全衛生教育の受講対象者
振動工具取扱作業者安全衛生教育は、以下の振動工具を扱う業務に携わる方が受講対象者となります。
(1) ピストンによる打撃機構を有する工具 | [1]さく岩機、[2]チッピングハンマー、[3]リベッティングハンマー、[4]コーキングハンマー、[5]ハンドハンマー、[6]ベビーハンマー、[7]コンクリートブレーカー、[8]スケーリングハンマー、[9]サンドランマー、[10]ピックハンマー、[11]多針タガネ、[12]オートケレン、[13]電動ハンマー |
(2) 内燃機関を内蔵する工具(可搬式のもの) | [1]エンジンカッター、[2]ブッシュクリーナー |
(3) 携帯用皮はぎ機等の回転工具((5)を除く。) | [1]携帯用皮はぎ機、[2]サンダー、[3]バイブレーションドリル |
(4) 携帯用タイタンパー等の振動体内蔵工具 | [1]携帯用タイタンパー、[2]コンクリートバイブレーター |
(5) 携帯用研削盤、スイング研削盤その他手で保持し、又は支えて操作する型式の研削盤(使用する研削といしの直径が150㎜を超えるものに限る。) | |
(6) 卓上用研削盤又は床上用研削盤(使用するといしの直径が150㎜を超えるものに限る。) | |
(7) 締付工具 | [1]インパクトレンチ |
(8) 往復動工具 | [1]バイブレーションシャー、[2]ジグソー |
出典:建設業労働災害防止協会
当該の安全衛生教育は、チェーンソー、芝刈り機を除く振動工具が対象です。
チェーンソーは「チェーンソーによる伐木等特別教育」、芝刈り機は「刈払機取扱作業者安全衛生教育」という別の教育を実施します。
振動工具取扱作業者安全衛生教育の受講内容
振動工具取扱作業者安全衛生教育では、以下の受講内容を学びます。
科目 | 範囲 | 時間 |
振動工具に関する知識 | ・振動工具の種類及び構造 ・振動工具の選定方法 ・振動工具の改善 | 1時間 |
振動障害及びその予防に関する知識 | ・振動障害の原因及び症状 ・振動障害の予防措置 (※日振動ばく露量A(8)等に基づく振動障害予防対策を含む) | 2.5時間 |
関係法令等 | ・労働安全衛生法 ・労働安全衛生法施行令等中の関係条項及び関係通達中の関係条項等 | 0.5時間 |
振動障害の予防措置にある「日振動ばく露量A(8)等に基づく振動障害予防対策」とは、振動工具の振動加速度のレベルに応じ、振動のばく露時間を制限する対策のことです。
以前は振動の周波数や強さに関係なく、「1日2時間以下」という漠然とした対策がとられていました。
しかし、近年は国際標準化機構(ISO)の検討結果により、振動の周波数、振動の強さ、ばく露時間をもとにした対策が進んでいます。
振動工具取扱作業者安全衛生教育の受講方法
振動工具取扱作業者安全衛生教育は、全国各地で講習会が実施されています。主に労働局登録教育機関、労働災害防止協会、民間企業などが実施しています。
振動工具取扱作業者安全衛生教育は、年齢を問わず誰でも受講が可能です。振動工具の業務に携わらない、個人の振動工具利用者でも受講できます。ただし、振動工具の業務に従事するには、18歳以上が条件となります。
振動工具取扱作業者安全衛生教育は、通信講座でも受講できる
振動工具取扱作業者安全衛生教育は講習会に参加するほかに、通信講座でも受講が可能です。
講習時間は合計で4時間半~5時間程度と短いものの、講習会に参加するには1日がかりになります。
仕事が忙しく休めない方、講習会の会場が遠い方は、通信講座を活用するのがおすすめです。
通信講座は時間と場所を選ばず講習が受けられるだけでなく、動画とテキストでくり返し勉強できます。振動障害の症状は簡単には治らないため、振動工具取扱作業者安全衛生教育の内容をしっかり理解することで、自分の身を守ることにつながります。
いつでもどこでも勉強できる通信講座で、振動工具の正しい使い方や注意点、振動障害の予防対策をしっかり学びましょう。
振動工具を取り扱うには安全衛生教育が必要
振動工具とは、ドリルやハンマーなど、振動を生じる工具のことです。振動工具を操作する際に振動が体に伝わり、血液循環や末梢神経、骨や関節に振動障害が起こる可能性があります。
振動障害の予防、かつ労働災害防止のため、振動工具取扱作業者安全衛生教育を受講する必要があります。振動工具取扱作業者安全衛生教育は講習会に参加する、または通信講座で受講が可能です。
振動工具取扱作業者安全衛生教育では、振動工具の正しい扱い方と選び方、振動障害の予防対策など、とても重要なことを学びます。
くり返し勉強できる通信講座は非常におすすめです。振動工具を適切、かつ安全に使用しましょう。