労働安全・労働衛生コンサルタントは、職場の労働災害、職業性疾病の未然防止や再発防止対策の方法・考え方を具体的に事業者に助言する専門家のことで、試験を突破してなることができる国家資格です。
ただ、似たような資格に「衛生管理者」や「安全管理者」といった資格もあります。ここでは、労働安全・労働衛生コンサルタントの概要や、類似資格との違いを解説しています。
目次
労働安全・労働衛生コンサルタントが求められる理由
社会経済の大きな変化の流れにより、職場にも多様な雇用形態、複雑な背景の労働者、高度化・複雑化された設備・環境、サービスの多様化などが大きな課題となり、その対応遅れとして重篤な災害、メンタルヘルスによる障害が発生しています。
これらは、単にブラック企業だからと決めつけがちですが、多くの事業所では、程度の差はありますが、法令違反や誤ったアプローチが見受けられます。
事業者、現場の管理監督者、作業者自身が労働安全・労働衛生のその立場での法的義務、あるいは法的知識、専門的技術知識、正しい組織・個人の労災防止の活動の方法を知らないことによることが原因です。
社会は問題のある企業をネット等で簡単にブラック企業とレッテルを貼りたがる傾向がありますので、企業も社員にとって安全かつ健康な経営の推進は急務です。
そのような背景の中、職場に出向いて事業者、管理監督者、作業者に指導する労働安全・労働衛生コンサルタントの仕事の量、範囲が増えている現状があります。
労働安全衛生コンサルタントの区分と仕事内容
労働安全・労働衛生コンサルタントの仕事内容を簡単に表すと以下のようになります。
「会社や経営者の求めにより、事業場の安全水準あるいは衛生水準の向上のための診断及び指導を行う他、労働安全衛生施策に関する相談、教育、講演、資料の提供等の業務」 |
これは企業だけでなく、厚生労働省や労働局からの委託事業もあります。
労働安全コンサルタントと労働衛生コンサルタントに分かれる
資格の内容は後述しますが、業務を行うためには国家試験に合格している必要があり、労働安全コンサルタントと労働衛生コンサルタントに分かれています。
労働安全コンサルタント | 労働環境の安全性を確認し、問題があれば責任者への指導や計画策定を行う。 |
労働衛生コンサルタント | 労働環境の衛生状態を確認し、問題があれば責任者への指導や計画策定を行う。 |
いずれも筆記試験の合格率は約3割程度です。
さらに口述試験を行いますが、労働安全コンサルタントでは口述試験の合格率が平均して8割弱、労働衛生コンサルタントでは5割程度です。
合格率から考えて労働衛生コンサルタントの方がやや難易度が高いです。
そして、いずれの資格も労働安全・労働衛生で業務をすることが可能です。
- 労働安全コンサルタントは適用範囲が広く、幅広く活躍できます。
- 労働衛生コンサルタントは最近の高齢化、メンタルの問題がクロ―ズアップされる中、絶対数が不足しています。
資格や業務の役割として二つに大きな差異はありませんが、難易度が高い分、業界内では労働衛生コンサルタントの方が評価が高い傾向にあります。
労働安全・労働衛生コンサルタントの仕事内容
労働安全・労働衛生コンサルタントの業務内容をより具体的に紹介すると、以下のようになります。大まかな作業手順ごとに番号を振っています。
- ① 労働安全・労働衛生状況の把握
- ② 改善のための計画策定
- ③ 企業内の責任者への指導
- ④ 労働環境全体の最適化(設備の設置、交換など)
- ⑤ 労働安全・労働衛生に関する規則や点検基準の設定
- ⑥ 規則や点検基準の実施、管理
具体例として、クリーニング工場の案件を見てみましょう。
①労働安全・労働衛生状況の把握
クリーニング機材、使い方などに危険性がないか、計画実行改善の管理体制が構築されているか把握します。
②改善のための計画策定
改善が必要な際は、どの機材を導入するか、交換する個数の決定、機材を使う際のチェック体制などの計画を策定します。
③企業内の責任者への指導
計画を実行するために責任者と話し合い、安全に対する考え方など必要に応じて指導を行います。
④労働環境全体の最適化(設備の設置、交換など)
計画に基づいて機材の交換等を指揮します。
⑤労働安全・労働衛生に関する規則や点検基準の設定
機材の使い方の再確認します(危険性の高い機材を使用する際はベルトコンベアーを一度止める、バディを組む、など)。
⑥規則や点検基準の実施、管理
策定した計画や規則に基づき、実際に工場を稼働させ、継続的に維持管理できるように指導します。
詳細な手順や内容はコンサルタントや対象企業によって異なりますが、大まかな流れ、内容は上記のようになります。
労働安全・労働衛生コンサルタントを取得するメリット
労働安全・労働衛生コンサルタントの主なメリットを紹介します。ここでは、労働安全コンサルタント、労働衛生コンサルタントの両方を合わせて、労働安全・労働衛生コンサルタントと呼んでいます。
メリット① 需要が高い
労働安全・労働衛生コンサルタントの顧客は法人で、「労働者の労働環境を適正に管理しなければならない」という責務をサポートするのが仕事です。労働環境に問題があると労働基準監督署や労働者から指摘され、場合によっては事業の継続が難しくなるため、企業にとって労働環境の改善は必須事項といえます。
今後も労働環境改善の風潮は進むと思われるため、労働安全・労働衛生コンサルタントとしての仕事には困らないことが予想されます。
ちなみに、職場の労働法規の遵守状況を助言する弁護士や労務管理士もありますが、やはりこれらの仕事も増えている状況です。
メリット② 給料が高い
大きな企業の場合であれば、労働環境に問題が発見され数日営業停止したりすると、数日間は売上も立たないため数億円の損失になることもあります。
また、ニュースで取り上げられるとブランドイメージの損失にも繋がるため、多くの企業は労働環境問題に対して敏感になっています。
このように、企業に求められる仕事であり、仕事の責任も大きくなる分労働安全・労働衛生コンサルタントの単価は堅調で、これが最大のメリットと言えるかもしれません。
労働安全・労働衛生コンサルタントの年収のデータは各所から出されていますが、相場としては600万円~700万円程度で、この数字は薬剤師の平均年収よりもやや高めくらいです。
ちなみに、労働安全・労働衛生コンサルタントには応募条件があり、いずれかの条件を満たしていないと資格試験を受けられません。
その中には薬剤師であることや、保健師として10年以上実務に携わっている者という条件があり、特に保健師から労働安全・労働衛生コンサルタントへの転身も多くなっています。
衛生管理者や安全管理者との違い
労働衛生コンサルタントや労働安全コンサルタントによく似た資格として、衛生管理者や安全管理者といった資格があります。ここではそれぞれの資格の違いを解説します。
労働衛生コンサルタントと衛生管理者の違い
衛生管理者とは、職場の衛生管理を行い快適な職場環境を作ることや、従業者の健康管理を担う専門家です。
衛生管理者は、常時50人以上の労働者が働く事業所では、労働者数に応じて一定数の衛生管理者を選任しなければなりません。これは法令(労働安全衛生法第十二条第一項)により定められおり、万が一選任しなかった場合は、50万円以下の罰金に科されます。
一方、労働衛生コンサルタントには専任の義務はなく、罰則等もありません。従って、設置をするかどうかは任意となります。
また受験資格も違います。衛生管理者の受験資格にも実務経験が求められますが、実務経験の範囲がとても広いのが特徴です。そして、労働衛生コンサルタントの受験資格の中には「衛生管理者として10年以上の実務経験がある者」が含まれています。
衛生管理者は事業場の衛生に関する実務を主に行い、労働衛生コンサルタントは衛生に関する指導を主に行います。つまり労働衛生コンサルタントは衛生管理者の上位資格と言えるでしょう。
労働安全コンサルタントと安全管理者の違い
続いて、労働安全コンサルタントと安全管理者の違いについてみていきましょう。
安全管理者とは、事業場内の安全にかかわる技術的事項の管理を行います。労働安全衛生法第11条第1項により定められている業種、かつ常時50人以上の労働者を使用する事業場にて選任しなければなりません。
しかし、労働安全コンサルタントには選任する義務はありません。この点は労働衛生コンサルタントと同じと言えるでしょう。
なお、2人以上の安全管理者を選任する場合で、安全管理者のなかに労働安全コンサルタントが選任されている場合には、労働安全コンサルタントのうち1人については専属でなくても問題ないとされています。
また安全管理者は国家資格ではありません。安全管理者選任時研修を受講して、かつ一定の実務経験を積むと安全管理者として選任できるようになります。
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衛生管理者や安全管理者からのステップアップを目指そう
労働環境が多様化した現代で、事業場の衛生管理や安全管理といった課題は年々重要になっています。今後も衛生管理者や安全管理者、労働安全・労働衛生コンサルタントの需要は高くなる傾向があるといえるでしょう。
労働安全・労働衛生コンサルタントは受験資格が複雑で実務経験の年数もある程度長い期間が求められますが、衛生管理者や安全管理者はそこまでハードルは高くなく資格を得ることができます。
労働安全・労働衛生コンサルタントになりたい人は、まずは衛生管理者や安全管理者を目指しましょう。そこから経験を積みステップアップすることで、年収アップも期待できます。